子どもが癇癪を起こす理由と対応法 〜科学的・心理的アプローチで理解する子どもの感情〜

「また始まった…」

買い物中、おもちゃを買ってもらえないというだけの理由で、床に寝転がって大泣きする我が子。周りの視線が痛く、どうしていいか分からず、ただただ早くこの場を去りたいと思ったことはありませんか？

子どもの癇癪に振り回される毎日。「どうして急に怒り出すの？」「私の育て方が悪いの？」そんな自問自答を繰り返しているママやパパは少なくないでしょう。

この記事では、発達心理学や脳科学の知見をもとに、子どもが癇癪を起こす本当の理由と、その場をしのぐだけではない、根本的な対応法をご紹介します。癇癪の裏に隠された子どもからのメッセージを理解することで、親子関係をより良好に、そして子どもの感情の発達を健全に導くヒントが見つかるはずです。

子どもの癇癪、実は発達の証

国立成育医療研究センターの調査によると、2〜4歳の子どもの約87%が週に1回以上の癇癪を経験すると報告されています。つまり、癇癪はほとんどの子どもに見られる日常の行動なのです。

「うちの子わがままだな、、、」と悩んでいるママもいるかも知れませんが、癇癪は単なる「わがまま」ではありません。発達心理学者のアラン・スローンは「幼児の癇癪は、自己主張と感情調整能力の発達過程で生じる自然な現象」と述べています。

感情調整能力：自分の感情を認識し、理解し、状況に応じて適切にコントロールする能力

発達段階と癇癪の関係

1〜2歳：言葉の発達が未熟で欲求や感情を言葉で表現できないために、不満や怒りが溜まりやすい時期
2〜3歳：自己意識の芽生えとともに「自分でやりたい」という欲求が強まる一方、能力が追いつかず”自分でやりたいけどできない葛藤”の時期
3〜4歳：想像力の発達により恐怖や不安を感じやすくなるが、それらを理解・処理する能力はまだ未熟な時期

脳科学から見る癇癪のメカニズム

脳科学の観点から見ると、幼児の癇癪は「未熟な前頭前皮質」と「発達途上の扁桃体のバランス」に関係しています。

ハーバード大学発達神経科学センターのジャック・シュオンコフ博士によると、感情をつかさどる「扁桃体」は生後早くから機能する一方、理性や自己制御を担う「前頭前皮質」の発達は緩やかで、完全に成熟するのは20歳を過ぎてからだといわれています。

つまり、子どもは強い感情を感じる能力はあるのに、それをコントロールする脳の部位がまだ十分に機能していないのです。これが「感情の嵐」とも呼ばれる癇癪の神経科学的な背景です。

子どもが癇癪を起こす5つの主な理由

1. 基本的欲求が満たされていない

子どもが空腹、疲れ、眠気を感じているとき、感情のコントロールがさらに難しくなります。イギリスの小児科医ティナ・パポネック博士の研究によれば、幼児の癇癪の約62%は、これらの基本的欲求が満たされていない状態で発生しているとのことです。

2. 気持ちを伝える能力の限界

言語発達の途上にある子どもは、自分の気持ちや要求を適切に伝えられないことに不満や怒りを感じます。アメリカ言語聴覚協会のデータでは、言語発達に遅れがある子どもは、そうでない子どもより約1.8倍癇癪を起こしやすいという結果が出ています。

3. 自律性と依存のジレンマ

2〜3歳は「自分でやりたい」という欲求が強まる時期ですが、実際の能力はまだ限られています。心理学者エリク・エリクソンはこの時期を「自律性対恥・疑惑の段階」と名付け、子どもが自分の限界に直面したときに強い不満や怒りを感じると説明しています。

4. 環境変化とストレス

引っ越し、両親の離婚、新しい兄弟の誕生など、環境の変化は子どもに大きなストレスをもたらします。日本小児科学会の調査では、何らかの環境変化を経験した子どもの約76%が、一時的に癇癪の頻度が増加すると報告されています。

5. 感覚過敏と刺激過多

自閉症スペクトラム障害に限らず、多くの子どもが何らかの感覚過敏を持っています。騒がしい場所、まぶしい光、特定の触感などが引き金となり、パニック状態になることがあります。センサリー・インテグレーション理論の提唱者ジーン・エアーズ博士によれば、子どもの約16%が何らかの感覚処理の問題を抱えているとされています。

効果的な対応法：科学的アプローチ

すぐにできる！即効性のある対応

1. 安全な環境の確保
   危険なものから遠ざけ、必要に応じて静かな場所に移動させましょう。
   
2. 共感と承認
   「悲しかったね」「怒っているんだね」など、子どもの感情を否定せず受け止めることが重要です。感情を承認された子どもは、そうでない子どもに比べて約40%早く落ち着くことが示されています。
   
3. シンプルな言葉での対話
   癇癪中の子どもは複雑な説明を理解できません。短く簡潔な言葉で話しかけましょう。

長い目でみる！長期的な対策

1. 感情を言葉で表現する力を育てる
   「怒り」「悲しみ」「不安」など、様々な感情を表す言葉を日常的に使い、子どもが自分の感情を言葉にできるよう支援しましょう。感情を表す言葉をたくさん知っている子どもは癇癪の頻度が約30%低いという結果が出ています。
   
2. 予測できる生活リズムを作る
   規則正しい生活リズムは子どもに安心感を与えます。特に食事と睡眠の時間を一定に保つことが重要です。
   
3. 選択肢を与える
   「赤い服と青い服、どちらを着る？」など、限られた選択肢を与えることで、子どもは自分で決める喜びを感じつつ、ママの見守りの中で安全に決断する経験ができます。
   
4. 感情をおさめる方法を教える
   「大きく息を吸って、ゆっくり吐く」「10まで数える」など、簡単な感情を落ち着かせる方法を教えましょう。子ども向けの簡単な呼吸法は、幼児でも効果があることが研究で示されています。
   
5. 一貫した優しい対応
   子どもが落ち着いているときも癇癪を起こしているときも、一貫して穏やかに接することで子どもの安心感を育みます。厳しすぎたり甘すぎたりする対応の揺れは子どもを混乱させます。親の一貫した態度は子どもの感情調整能力の発達に良い影響を与えることが分かっています。

専門家に相談すべき状況

以下のような場合は、小児科医や児童心理士などの専門家に相談することをお勧めします。

• 5歳を過ぎても頻繁に激しい癇癪が続く
• 自分自身や他者を傷つける行動が見られる
• 癇癪が日常生活や社会的関係に著しい支障をきたしている
• 発達の遅れが疑われる

まとめ：理解が対応の第一歩

子どもの癇癪は、彼らの未熟な神経系と発達段階から見れば当然の反応です。親として大切なのは、癇癪を「悪い行動」と捉えるのではなく、子どもからの重要なサインとして理解することです。

子どもの感情をコントロールする力は、親の適切な見守りと安全な環境の中で徐々に発達していきます。実践できる対応法を試しながら、子どもの感情の発達を支援していきましょう。

そして何より、完璧な親はいないことを忘れないでください。あなた自身も感情的になることがあるでしょう。そんなときは、深呼吸して自分を許し、また明日から頑張ればいいのです。子育ては長い旅。あなたも子どもも、日々成長しています。